このPick Upでは、今まであまり取り上げられることのなかった、アーチスト、レーベル、ジャンルの魅力を掘り下げていきます。

今回はロンドンにあるカースティー・マッコール追悼のモニュメントの話題と、彼女のアルバム「Kite」期のシングル・リリースについての特集です。

1. カースティー・マッコール追悼のモニュメント

カースティーの没後、彼女を偲ぶモニュメントがロンドンに作られました。
これについては、2001年夏にカースティーのホームページにて報じられており、私は今回2回目の訪問となりました。

このモニュメントは、一見なんの変哲もない公園に置かれたベンチ。ロンドン中心部の「Soho Square」に設置されているものです。園内にあるほかのベンチとなんら外観は変わりませんが、背もたれの部分に埋めこまれた彼女の名前と生没年のプレートで見分けがつきます。

彼女はアルバム「Titanic Days」に収録されている「Soho Square」でこの公園の情景を歌っています。
(ベンチのプレートには、その歌詞の一節もきざまれています)

園に行ってみると、大都会のまんなかに位置しながら、園内はたいへん静か(日時にもよるのでしょうが)。写真を撮ると不思議に思われるかな?という心配も杞憂で、芝生に散水するおじさんをふくめ 2.3人しか人がいませんでした。また通りに面した建物の裏手にあたるため、すぐ近くのオックスフォード・ストリートの喧騒からはなれた、歌われたとおりの静かな公園でした。

レコード会社や音楽出版社も多いソーホー地区は、生前の彼女にとってもなじみのある場所だったのではないかと想像します。この場所にこういったモニュメントをつくろうと活動したフアンや遺族の方の気持ちが感じられます。



2. アルバム「Kite」期のシングル・リリース。

彼女のキャリアにおいて、もっとも頻繁に発売され、またそれぞれにアルバム未収録曲が収録されていた、2ndアルバム「Kite」期のシングル・リリース。この時期のアルバム未収録曲を集めて、1枚のアルバムが作れるのでは?と思うほど、その量・質ともに充実していると思います。ここでは発表されたシングルごとに、そのカップリング曲の魅力についておっていきたいと思います。

前回の特集 で触れたように、このアルバム収録曲のシングル・カットは「Don't Come The Cowboy〜」をのぞき、すべて12インチ、10インチ、7インチ、CDシングルの4フォーマットが発売されています。
ここではどのシングルにおいても、もっとも収録曲の多かったCDシングル(小さな3インチ・タイプです)の収録曲を記述しています。画像のジャケットもCDシングルのものです。



「Free World」 89年2月 43位(タイトル、発売時期、イギリスでのチャート順位 以下同様)

1. Free World 
2. Closer to God ? * (LP・CDを含むアルバム「Kite」未収録曲・バージョン=以下同様)
3. You Just Haven't Earned It Yet Baby 
4. La Foret de Mimosas

(作曲者)
3. はザ・スミスのカバー。これ以外はカースティー単独でのオリジナル曲、

(プロデュース)
全曲がステイーブ・リリーホワイトのプロデュース 

アルバム「Kite」にさきがけてのシングルは、マイナー・キーのアップ・テンポ・ナンバー。ギター中心のサウンドに、言葉数の多いボーカルが緊張感を高めているテンションの高い楽曲です。これはアルバムに収録されたものとまったく同じバージョンです。

印象としてはリズムは違うものの、マイナー・キーと曲調がスミスの「Bigmouth Strikes Again」などを思わせます。

アルバムについての当時の雑誌記事に「スミスぽい曲にはジョニー・マーが参加していない」というのがありました。この曲のギターは、カースティーが「Kite」の功労者として一番に挙げていたピート・グレニスターが中心で、この曲ではジョニー・マーはプレイしていません(元プリテンダーズのロビー・マッキントッシュも参加しています)。今思うとライターの方の指摘は、この曲のことを言っていたのではと思います。

ただこの曲を最初のシングルにもってきたことに、NMEを読んでいるような若いスミス・フアンへのアピールを意識したのでは?とうがった見方をしてしまいます。

そう思わせるのは、このシングルにスミスのカバー「You Just Haven't Earned It Yet Baby 」がカップリングされていることも原因かもしれません。

このアルバム関連の曲ではめずらしくゲスト参加が少なく、ギターはすべて作者のジョニー・マーがプレイ。元曲からおそめのシャッフル(?)にアレンジされたリズムに、カースティーのボーカルのフェイクでオリジナリティを感じさせようとの配慮が感じられます。

なおジャケット裏面に「She's Having A Baby 」のサントラから収録と書かれてありますが、サントラ収録バージョンではなく、よりプロデュースが施された印象の別バージョンを収録。そのまま「Kite」のCD版にも収録されています。

つづく「La Foret de Mimosas 」はサウンドの質感は「Kite」のものですが、曲の雰囲気は彼女の作品であまり見られないものでは?と感じます。フランス語で歌われているという語感の違いは差し引いても、伝統的な古いシャンソンを意識したのか、大げさに思えるほどのメロディの抑揚は、彼女のほかの作品にはあまり見られません。またこの哀感あふれる曲調に彼女の声質がたいへんマッチしています。この曲も「You Just Haven't 〜」と一緒に「Kite」のCD版にも収録されています。

曲順が前後しましたが、このCDシングル収録曲の中で唯一アルバム未収録なのが「Closer to God ? 」です。ミデイアム・テンポのトラッド風アレンジの楽曲で、次のアルバムとなる「Electric Land Lady」の同系等の楽曲に近い印象です。

CDシングルには未収録ですがこのシングルの限定10インチには、もう1曲アルバム未収録曲(バージョン)が収録されています。アルバムに収録されているジョニー・マーとの共作曲「The End of A Perfect Day 」のデモ・バージョン (Original Demo Version と表記)がそれで、この10インチシングルでしか聴けない音源です(ステイーブ・リリーホワイトのプロデュース)。

ここでの演奏はアコースティック・ギターとエレクトリック・ギターのみ。これにボーカルとコーラスがのっているもので、コーラスは完成バージョンから持ってきたものかもしれません。ボーカルのメロディ・ラインがところどころ違うのと歌詞も2ヶ所違っています。たしかに、特にボーカルに関してはオリジナル・デモの表記のとおりなのかもしれません。

この10インチシングルはタイトル曲の歌詞の載ったインサートと限定番号が付されています。

すべてのフォーマットともジャケット・デザインは共通ですが、使われている写真は逆刷りかもしれません。彼女の抱えるギターが左きき用のように写っています。またこの写真の彼女の髪型は「Kite」期に良くみられたものではなく、デビュー時のTV出演時のような60年代風のものとなっています。


「Days 」 89年6月 12位

1. Days 
2. Please Help Me, I'm Falling *
3. Still Life *
4. Happy *



(作曲者)タイトル曲はキンクスのカバー、2.は60年のHank Locklinのヒット曲のカバー。3.は カースティーとフィリップ・ランボウの共作曲、4はカースティー単独でのオリジナル曲。

(プロデュース)タイトル曲はステイーブ・リリーホワイトのプロデュース 、それ以外はカースティーとコリン・スチュワートの共同プロデュース 、4.のみジョニー・マーも連名。

68年発表のキンクスのカバー曲でヴァージン・レーベル在籍時、最大のヒットとなったシングルです。

元曲は今でも人気の高いアルバム「ヴィレッジ・グリーン」の頃の作品で、このカバーではAメロ部分から、オリジナルにはないドラムのリム・ショットが入り、メリハリがつけられています。後半部分ではかなり多くのコーラスがダビングされていて、曲を盛り上げています。ギターはジョニー・マーが中心に担当。ドラムのメル・ゲイナーはシンプル・マインズでのプレイとは違う印象(スネアのチューニングを工夫している?)で、やわらかなサウンドを実にうまく演出しています。アルバムに収録されたものとまったく同じバージョンです。

カップリング曲も未収録曲が中心で充実しています。

「Please Help Me, I'm Falling」は、アメリカの古いカントリー・ヒット曲のカバー。この曲は日本のソフトロック・フアンにも知られる、ニノ・テンポ&エイプリル・スティーンブンスもカバーしており、彼らのベストCDにも収録されています(この曲の作者の別のヒット曲もカバーしています)。

ボーカルのみの歌い出しから始まる演奏は、バイオリンのソロなどカントリー・マナーのリラックスしたもの。たしかにアルバムに入っていれば唐突なサウンドだったかもしれませんが、メロディもほのぼのとした良い曲で、サウンドもセルフ・プロデユースであることを感じさせません。このCDシングルでしか聴けない音源です

「Still Life 」はアコースティック・ギターのアルペジオのみの伴奏のバラード曲。半音ずつ下がっていくコード進行が美しく、シンプルなアレンジながら、じっくりと聴かせてくれる佳曲です。
この曲は1stアルバムのパートナー、フィリップ・ランボウとの共作曲。めずらしくポリドール時代の作品の人脈です。

「Happy」は、はじけたPOPナンバー。16ビートにギターのリフとハーモニカ(ジョニー・マー?)が先導する曲です。サビのところで「Happy」と言っているのはカースティーの娘さんなのかもしれません。録音時の雰囲気が感じられる楽しいナンバーです。

なお12インチには別のアルバム未収録曲「El Paso」(カントリー・ソングのカバー)が収録されています。


「Innocence」 89年9月 

1. Innocence (Remix) *
2. No Victims (Guitar Heroes Mix) *
3. Innocence (The Guilt Mix) *
4. Clubland *


(作曲者)タイトル曲(1,3)、はピート・グレニスターとの共作。2.、4.はカースティー単独でのオリジナル曲。

(プロデュース)タイトル曲(1,3)、2.はステイーブ・リリーホワイトのプロデュース 、4.はカースティーとコリン・スチュワートの共同プロデュース。

「Kite」からのシングルで唯一、アルバム・バージョンとは違うリミックス・バージョンでシングル化。私が聴く限り、演奏やボーカルの素材は同じものだと思われますが、シングル・バージョンの方がギターの各パートの音量が均一で、サウンドが混沌としているように聞こえます。

3は「The Guilt Mix」と題された同曲のロング・バージョン(5分40秒)です。ストリングスのパートから、曲がはじまり1番のあいだのリズムはベースとバスドラのみで、伴奏はアコースティック・ギターのみ。元曲がたいへんたくさんの楽器が入っていることもあり、このシンプルなアレンジは新鮮です。曲が進むごとにストリングス、エレクトリック・ギターが加えられていく形態となっています。

2.はアルバム・バージョンのほぼインスト・バージョンといえるもの。元になった録音自体は同じものだと思われます。「Guitar Heroes Mix」と題されているとおり、ボーカルがない分重ねられたギターのそれぞれのパートが良く聞こえます。エレクトリック・ギターはあのピンク・フロイドのデイブ・ギルモアとジョニー・マーがプレイ("Guitar Heroes"!)。最後のコードの長いサスティーンに、アンプがフィードバックを起こすところで曲が終了していますが、おそらくこれはデイブ・ギルモアのプレイだと思われます。

これまでアルバムの収録曲の別バージョンでしたが、唯一の未発表曲が次の4. Clubland 。けっして派手な曲調ではなくまたセルフ・プロデュースながら、なかなかの佳曲だと思います。ハイライフ調のギターがフェイドインしてきて、ベース・ラインが曲をひっぱるシンプルなアレンジなのですが、途中のギターのスライド・フレーズなど、なんともいえない味があります。

CDシングルには未収録ですが、このシングルの限定10インチには「Don't Run Away from Me Now」(フィリップ・ランボウとの共作曲、カースティーとコリン・スチュワートの共同プロデュース)というアルバム未収録曲が収録されています。

「Please Help Me, I'm Falling」 のサウンドに似たカントリー・マナーの曲で、Featuring Tex Pistols ( X セックス・ピストルズ)というジョークが記載されています。ここでもバイオリンのメロディが目立っています。

このシングル発売直後のBBCセッションでも披露され、そこではアトラクションズのピート・トーマスとともに、ネオアコ・フアンにはおなじみボビー・バレンチノも演奏に参加しています。このシングルの録音時のメンバーや時期がわからないためはっきりとは言えませんが、彼らこそが"Tex Pistols" だった可能性もあります。

この限定10インチ・シングルはナンバリングとされたダブル・ジャケット仕様、見開きに使われた写真は、ウイッグをつけたカースティーとジョニー・マーの2ショットです。この写真は90年にアメリカでプロモーション用にリリースされた、5曲入りミニ・アルバムのジャケットにも使われています。

なおこのシングルの裏ジャケットには、フォーク・シンガーでもある彼女の父、イワン・マッコールへの「For My Dad」というメッセージが記されています。残念ながらこのシングルが発売された直後の89年10月に亡くなっており、延命への願いだったのかもしれません。

 

 

「Don't Come The Cowboy with Me, Sonny Jim ! 」 90年3月 

1. Don't Come The Cowboy with Me, Sonny Jim ! 
2. Other People's Hearts *
3. Complainte pour Ste Catherine 
4. Am I Right ? *



(作曲者)タイトル曲と4.はカースティー単独でのオリジナル曲。2.はカースティーとGavin Poveyの共作曲。3.はケイト&アンナ・マクギャリルのカバー。

(プロデュース)1.、3.はステイーブ・リリーホワイトのプロデュース 、それ以外はカースティーとコリン・スチュワートの共同プロデュース。

デビュー・シングルを思い起こさせる長いタイトルとカントリー風の曲調とジャケット・デザイン。これが「Kite」からの最後のシングル・カットです。タイトル曲はアルバムに収録されたものとまったく同じバージョンです。

2. Other People's Hearts はピアノのアレンジが美しいバラード曲。ドラムは入っておらず、情感豊かなこのシングル収録曲のなかで白眉の一曲です。

3. Complainte pour Ste Catherine はアルバムのCD版に収録されていたもので、まったく同じバージョンとなっています。そろそろ4枚目のシングルとなり、カップリングのための曲のストックが尽きてしまっていたたのかもしれません。

曲自体はこのアルバム関連の曲の中で、もっともアフリカのミュージシャンが参加した楽曲。お祭りの明るさを感じさせる楽しいものです。ハイライフ風ギター、トランペット、ハーモニカ(ジョニー・マーのプレイ)などが盛り上げる後半部分は、CDでのアルバムの締めにもふさわしいサウンドでした(LPでの「You And Baby」でのしめくくりも捨てがたいです)。

ケイト&アンナ・マクギャリルのカバーで、ケイト・マクギャリルはルーファス ウェインライトの母親です。彼女達の作品に明るくはないのですが、歌詞のフランス語はおそらくカナダの東海岸の出身だからだと思います。

4. Am I Right ?は「Happy」タイプのロック・ナンバー。1分30秒で終ってしまい、楽しい曲ではあるもののB面あつかいは納得できます。

おわりに

この時期、これほどアルバム未収録曲が充実していたのは驚きで、残念ながら以降の彼女の作品では、ライブ録音の収録は増えるものの、ここまでの充実はなかったように思います。これらの音源がまとめて聴ける編集盤のリリースを期待したいところです。

 

(記事作成 2002年 8月)

当店では一部上記のアイテムを含むカースティー・マッコールのリリースを販売しています。フアンの方はもちろん、これから聴いてみようという方もぜひご覧になってください。

リスト No.3 (イニシャルKからP)



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